はじめに
「もっと部下を褒めましょう」
管理職研修やマネジメントの本を通じて、そう言われたことがある人は多いのではないでしょうか。
しかし、実際に部下を前にすると、意外と難しいものです。
何を褒めればいいのか分からない。
褒めるほどの成果が見つからない。
自分自身、あまり褒められてこなかった。
苦手なのに無理に褒めると、わざとらしくなりそう。
中には、
「期限を守るのは当たり前」
「きちんと働くのも当たり前」
「任された仕事をやり切るのも当たり前」
と感じる人もいるでしょう。
そう思うこと自体を、「私は責める必要はない」と思っています。
管理職になったからといって、急に褒め上手になれるわけではありません。
むしろ、褒めなければいけないと思うほど、何を言えばよいか分からなくなります。
ですから、無理に褒めようとしなくても大丈夫です。
部下に本当に必要なのは、大げさな褒め言葉ではありません。
自分の仕事や存在を、きちんと見てもらえているという実感です。
「成果が出たら褒める」では、見落とす人がいる
部下を褒めると聞くと、多くの管理職は、分かりやすい成果を探します。
売上目標を達成した。
大きな契約を取った。
改善提案が採用された。
難しい仕事をやり遂げた。
以前より大きく成長した。
もちろん、こうした成果を認めることは大切です。
ただし、「成果が出たら褒める」という考え方だけでは、日々現場を支えている多くの人が対象から外れてしまいます。
期限を守っている。
毎日きちんと働いている。
周囲が困っているときに手を差し伸べている。
目立たない仕事を引き受けている。
期待された役割を、当たり前のように果たしている。
こうした人たちは、大きな問題を起こしません。
目立つ成果を出すとは限りません。
だからこそ、管理職から見落とされやすいのです。
問題を起こした人には声をかける。
大きな成果を出した人は褒める。
でも、その間で日々現場を支えている人には、何も伝えない。
これでは、真面目に働いている人ほど、
「自分の仕事は見られていない」
「できて当たり前だと思われている」
「何か問題を起こさない限り、関心を持たれない」
と感じるようになります。
褒める対象が少ないのではありません。
管理職が「大きな成果」だけを見ている可能性があります。
無理な褒め言葉は、部下にも伝わる
褒めることが大切だと言われると、管理職は何とか言葉をひねり出そうとします。
「すごいね」
「さすがだね」
「よく頑張ったね」
もちろん、本当にそう思っているなら問題ありません。
しかし、本心ではない言葉や、何が良かったのか分からない褒め言葉は、部下にも伝わります。
普段はほとんど見ていないのに、突然褒められる。
具体的な理由もなく「すごい」と言われる。
褒めた後に、何か仕事を頼まれる。
こうしたことが続くと、部下は褒め言葉そのものを疑うようになります。
「何か意図があるのではないか」
「自分を動かすために言っているのではないか」
褒めることが、部下をコントロールするためのテクニックになってしまうのです。
部下は、評価されるためだけに働いているわけではありません。
毎回、上司から持ち上げてもらいたいわけでもありません。
だから、無理に褒める必要はありません。
それよりも、実際に見たことを、具体的に伝える方がはるかに意味があります。
必要なのは、褒めることよりも「見ている」と伝えること
部下に本当に必要なのは、大げさな褒め言葉ではありません。
たとえば、
「助かったよ」
「ありがとう」
「大変だったよね」
「いつも周囲を支えてくれているね!」
「あの対応があったから、現場が止まらずに済んだよ!」
こうした言葉です。
感謝やねぎらいは、相手を上から評価する言葉ではありません。
「あなたの仕事を見ています」
「あなたの貢献に気づいています」
「その行動が周囲に与えた影響を理解しています」
と伝える言葉です。
ここが、単に褒めることとの大きな違いです。
たとえば、部下が忙しい同僚を手伝っていたとします。
「優しいね」では、本人の性格を評価しているだけです。
一方で、
「忙しい中でフォローに入ってくれて助かったよ。あのおかげでチーム全体が回ったよ!」
と伝えれば、本人は自分の行動がどう役に立ったのかを理解できます。
また同じ場面が起きたときにも、その行動を選びやすくなります。
人材育成という意味でも、こちらの方が具体的です。
部下を気分よくさせることが目的ではありません。
何が周囲に良い影響を与えたのかを伝え、その行動を本人が自覚できるようにする。
これも、現場リーダーに求められる大切な育成行動です。
部下が求めているのは「見てもらえている」という実感
部下が求めているのは、毎回褒められることではありません。
自分の仕事や存在を、きちんと見てもらえているという実感です。
これは、部下との信頼関係をつくる日常の基本行動でもあります。
普段は何も言われない。
ミスをしたときだけ呼ばれる。
問題が起きたときだけ細かく確認される。
面談では改善点ばかり伝えられる。
こうした関わりが続けば、部下は上司に話しかけにくくなります。
「どうせ悪いところしか見られていない」
「相談すると、また指摘される」
「余計なことを言わない方がよい」
そう感じるようになるからです。
逆に、日頃から小さな貢献や変化に気づき、言葉にしている管理職には、部下も話しかけやすくなります。
「この人は自分の仕事を見ている」
「困っていることも、話せば分かってくれるかもしれない」
そうした感覚が、相談や報告のしやすさにつながります。
心理的安全性というと、難しい制度や特別な取り組みのように聞こえるかもしれません。
しかし実際には、
見ている。
気づいている。
ありがとうと伝える。
こうした日常の積み重ねが土台になります。
問題が起きたときだけ関わる管理職になっていないか
現場の管理職は忙しいです。
自分の仕事もある。
部下の進捗も見なければならない。
お客様対応もある。
数字も追わなければならない。
上司や本部への報告もある。
そのため、どうしても問題が起きた部下への対応が優先されます。
ミスをした。
期限に遅れた。
周囲と揉めた。
お客様から指摘があった。
こうしたときには声をかけます。
一方で、毎日問題なく働いている部下には、声をかける機会が少なくなります。
「特に問題がないから大丈夫」
「任せておけばやってくれる」
「忙しいから、できる人には構っていられない」
その気持ちもよく分かります。
ただ、その結果として、真面目に働いている人に負担が集中することがあります。
できる人だから、また任せる。
文句を言わないから、またお願いする。
問題を起こさないから、フォローしない。
感謝やねぎらいもないまま、仕事だけが増えていく。
本人は少しずつ疲れていきます。
そして、ある日突然辞める。
会社側は、
「あの人は順調だと思っていた」
「不満があるとは思わなかった」
と驚きます。
しかし、問題がなかったのではありません。
問題が表に出る前の日常を、見られていなかった可能性があります。
これは管理職本人の性格だけの問題ではない
部下への感謝やねぎらいを自然に言葉にできる管理職もいます。
一方で、気づいていても言葉にできない管理職もいます。
恥ずかしい。
照れくさい。
自分もそうされてこなかった。
仕事はできて当たり前だと思ってきた。
何をどう伝えればよいか分からない。
こうした違いは、確かにあります。
ただ、それを管理職個人の性格だけに任せてはいけません。
「人柄のよい管理職ならできる」
「コミュニケーションが得意な人ならできる」
「苦手な人は仕方がない」
これでは、部下への関わり方が属人化します。
ある管理職の下では、日々の仕事を見てもらえる。
別の管理職の下では、ミスをしたときしか声をかけられない。
ある店舗では、感謝やねぎらいが自然に交わされる。
別の店舗では、できて当たり前で終わる。
同じ会社でありながら、上司によって働く環境が大きく変わってしまいます。
会社として必要なのは、褒め上手な管理職を増やすことではありません。
日々の仕事を見て、小さな貢献に気づき、それを具体的に言葉で伝えられる現場リーダーを育てることです。
会社として整えるべきこと
では、会社として何をすべきでしょうか。
「もっと部下を褒めましょう」と管理職に伝えるだけでは不十分です。
褒めることを目標にすると、言葉だけが表面的になります。
会社として明確にしたいのは、
部下の日常の仕事を見ること。
良い行動や貢献に気づくこと。
その事実を具体的に伝えること。
感謝やねぎらいを言葉にすること。
こうした行動も、管理職の役割だということです。
売上を管理する。
進捗を確認する。
問題を解決する。
注意や指導をする。
これらだけが管理職の仕事ではありません。
部下が日々どのように現場を支えているのかを見て、その意味を伝えることも、人を育てる管理職の仕事です。
ただし、ここでも「毎日一人を褒める」といったルールを増やせばよいわけではありません。
大事なのは、褒めた回数ではありません。
管理職が部下の日常を見られているか。
何が現場への貢献なのかを理解しているか。
それを本人に伝えられているか。
会社としては、1on1や面談、日々の声かけ、管理職同士のケース共有などを通じて、こうした関わりを現場で続けられる状態をつくる必要があります。
単発研修で「褒め方」を学んで終わりではありません。
現場で実践する。
部下の反応を見る。
うまく伝わらなかったことも振り返る。
管理職同士で共有する。
そこまでできて、初めて管理職育成の仕組みになります。
おわりに
部下を無理に褒める必要はありません。
大げさな言葉も、わざとらしい称賛も必要ありません。
まず必要なのは、部下の日常の仕事を見ることです。
期限を守っている。
周囲を支えている。
目立たない仕事を続けている。
期待された役割を果たしている。
そうした行動に気づいたら、具体的に伝える。
「助かりました」
「ありがとう」
「大変だったと思います」
「いつも支えてくれていますね」
それで十分です。
部下が求めているのは、毎回褒められることではありません。
自分の仕事や存在を、きちんと見てもらえているという実感です。
そして、その実感が信頼関係をつくります。
会社として育てるべきなのは、褒め上手な管理職ではありません。
日々の貢献に気づき、感謝やねぎらいを言葉で伝えられる現場リーダーです。
それを個人の人柄やセンスだけに任せず、会社として育てる仕組みを持つことが重要です。
現場リーダー育成に課題を感じている企業様へ
管理職が、部下の問題点ばかり見ている。
1on1や面談が、評価や指摘の場になっている。
店長・SV・係長・主任によって、部下への関わり方に差がある。
感謝・ねぎらい・フィードバックが、管理職個人の人柄に任されている。
このような課題を感じている企業様は、一度、現状を整理することをおすすめします。
表面的には「褒めるのが苦手」「コミュニケーションが得意ではない」という問題に見えるかもしれません。
しかし実際には、会社として現場リーダーにどのような育成行動を求めるのか、日常の声かけや1on1をどう部下育成につなげるのかが曖昧な場合も少なくありません。
現場リーダー育成・管理職育成に課題を感じている企業様は、以下のフォームよりご相談ください。
貴社の状況を伺ったうえで、現場リーダー育成のどこに詰まりがあるのか、どこから整えるべきかを整理します。

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