はじめに
部下から、
「優しい上司です」
「話しやすいです」
「怒らないので安心します」
と言われる。
悪い評価ではありません。
感情的に怒らない。
部下の話を聞く。
困っているときには寄り添う。
こうした上司は、部下にとって相談しやすい存在です。
私も、管理職が威圧的である必要はないと思っています。部下が安心して話せる関係は、現場を動かすうえで欠かせません。
ただし、同じ「優しい上司」でも、少し注意が必要な場合があります。
部下に嫌われたくない。
関係を悪くしたくない。
厳しいことを言って、落ち込ませたくない。
そう考えるあまり、必要なことまで言えなくなっている場合です。
問題は、優しいことではありません。
嫌われないことを優先して、管理職としての責任を果たせなくなることです。
関係を壊したくないから、言えなくなる
部下に嫌われたい管理職はいません。
せっかく話しやすい関係ができた。
相談もしてくれるようになった。
チームの雰囲気も悪くない。
その関係を壊したくないと思うのは自然です。
特に、部下との関係を大切にしている管理職ほど、言いにくいことを避けたくなります。
遅刻が続いている。
仕事の期限が守られていない。
周囲に負担をかける行動がある。
チームのルールが守られていない。
本当は伝える必要がある。
それでも、
「本人も大変そうだから」
「今は言わない方がいい」
「もう少し様子を見よう」
と先送りしてしまう。
その場では、関係は悪くならないかもしれません。
ただ、問題がなくなったわけではありません。
本人は「このままで問題ない」と受け取るかもしれない。周囲のメンバーは、「なぜ何も言わないのか」と不満を持つかもしれない。
一人への配慮が、別の誰かの負担になることもあります。
優しさと、何も言わないことは違う
部下の事情を理解することは大切です。
相手の気持ちを考えず、一方的に注意すればよいわけでもありません。
ただし、相手を尊重することと、何も言わないことは違います。
必要なことを伝えないままでは、本人は自分の行動を見直す機会を失います。
管理職自身も、問題が大きくなってから対応することになります。
言わない方が、その場は楽です。
部下から反発されることもない。
管理職自身も、嫌な思いをせずに済む。
しかし、本当に部下の成長やチームのことを考えるのであれば、言わなければならない場面があります。
必要なことを、相手を尊重しながら伝える。
それも管理職としての優しさです。
平穏なときには、問題が見えにくい
数字も大きく落ちていない。
人間関係にも目立った問題がない。
現場も何とか回っている。
こうしたときは、厳しいことを言わなくても、すぐには困りません。
部下も嫌な思いをしない。
管理職も反発を受けずに済む。
そのため、
「今の関わり方でうまくいっている」
と感じます。
ただ、管理職の役割が問われるのは、平穏なときだけではありません。
業績が落ちる。
人手が足りなくなる。
これまでのやり方を変える必要が出る。
誰かの行動を改めてもらわなければならない。
こうした局面では、全員にとって耳触りのよいことだけを言うわけにはいきません。
仕事の進め方を変えてもらう。
できていないことを伝える。
役割や責任を明確にする。
全員が納得していなくても判断する。
普段から「嫌われないこと」を優先していると、ここで動けなくなります。
急に厳しくなっても、部下には届かない
普段は問題があっても何も言わない。
ところが、業績が悪化したり、大きな問題が起きたりすると、急に厳しくなる。
「もっと責任を持ってほしい」
「今のやり方では困る」
「これまで以上に動いてほしい」
そう言われても、部下は戸惑います。
「今までは何も言われなかった」
「急に方針が変わった」
「自分たちだけが悪いのか」
と感じるでしょう。
信頼関係は、何も言わないことでつくられるものではありません。
普段から必要なことを伝え、意見が違っても対話を続けられる。
注意や指摘を受けても、「自分自身を否定された」と感じない。
そうした関係があるからこそ、厳しい局面でも言葉が届きます。
本当に必要なのは、優しいか厳しいかではない
「もっと厳しくしなければならない」
という話ではありません。
優しい上司をやめる必要もありません。
話を聞く。
感情的に責めない。
部下を一人の人として尊重する。
こうした姿勢は、これからも必要です。
問われるのは、その優しさが誰のためのものかです。
部下の成長やチームのために相手を尊重しているのか。
それとも、自分が嫌われず、衝突を避けるために何も言わないのか。
必要なのは、優しいか厳しいかという二択ではありません。
相手を尊重しながら、必要なことは伝える。
平穏なときだけでなく、厳しい局面でも判断し、チームを前へ進める。
そこに、管理職としての役割があります。
これは管理職本人の性格だけの問題ではない
必要なことを言えない管理職を見ると、会社は、
「もっと毅然としてほしい」
「部下に気を遣いすぎている」
「管理職として厳しさが足りない」
と考えます。
もちろん、本人が向き合うべき課題はあります。
ただ、会社側が普段から、
ハラスメントに注意すること。
人間関係を悪化させないこと。
部下に寄り添うこと。
だけを強く伝えていれば、管理職は必要な指導まで避けるようになります。
その一方で、問題が起きると、
「なぜもっと早く注意しなかったのか」
と責められる。
これでは、管理職は何を基準に関わればよいか分かりません。
会社として、どのような状態を放置してはいけないのか。管理職にどこまでの役割と責任を求めるのか。
そして、相手を尊重しながら必要なことを伝えるとは、どのような関わりなのか。
この認識を揃える必要があります。
管理職育成は、平穏なときだけを想定しない
管理職育成では、
話を聞く。
褒める。
承認する。
心理的安全性を高める。
こうしたテーマが多く扱われます。
どれも大切です。
ただ、それだけでは、厳しい局面で現場を動かせません。
部下の行動を変えてもらう必要があるとき。
現場に負担のかかる判断をするとき。
全員が納得できない中で方向を示すとき。
こうした場面で、管理職が判断できるか。必要なことを自分の言葉で伝えられるか。
そこまでを育成する必要があります。
優しさを失わせるのではありません。
優しさだけに頼らず、必要な責任も果たせる管理職を育てるということです。
おわりに
部下から「優しい上司です」と言われる。
それ自体は、悪いことではありません。
相談しやすい。
話を聞いてくれる。
感情的に怒らない。
こうした関係は、チームにとって大切です。
ただ、その優しさが、
言うべきことを言わない。
嫌な話を避ける。
部下に合わせ続ける。
という意味になっているのであれば、注意が必要です。
必要なのは、優しさを捨てることではありません。
相手を尊重しながら、必要なことを伝えることです。
そして、それを管理職個人の性格や経験だけに任せないことです。
管理職に何を期待するのか。
どのような状態を放置しないのか。
厳しい局面で、どのような判断を求めるのか。
会社として、そこを明確にする。
平穏なときだけでなく、厳しい局面でも現場を前へ進められる管理職を育てる。
それが、現場で機能する管理職育成です。
現場リーダー育成に課題を感じている企業様へ
管理職が、部下に必要なことを言えない。
関係悪化を恐れ、問題行動が放置されている。
普段は雰囲気がよい一方、厳しい局面になるとチームが動かない。
店長・SV・係長・主任によって、注意や指導の基準が異なる。
このような課題を感じている企業様は、一度、現状を整理することをおすすめします。
表面的には、管理職本人の性格や指導力の問題に見えるかもしれません。
しかし実際には、会社として管理職にどのような役割と責任を求めるのか、必要なことを伝える基準を持てているかに原因がある場合も少なくありません。
現場リーダー育成・管理職育成に課題を感じている企業様は、以下のフォームよりご相談ください。
貴社の状況を伺ったうえで、現場リーダー育成のどこに詰まりがあるのか、どこから整えるべきかを整理します。
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