はじめに
人材育成というと、多くの人が「教えること」を思い浮かべます。
仕事の進め方を教える。
ルールを教える。
手順を教える。
判断基準を教える。
失敗しない方法を教える。
もちろん、教えることは必要です。
特に新しく入った人や、経験が浅い部下に対しては、何も教えずに「自分で考えて」と言っても無理があります。
ただ、現場でよく起きているのは、管理職が一生懸命教えているのに、部下がなかなか自分で考えるようにならないという問題です。
言われたことはやる。
でも、自分から考えない。
分からないことがあると、すぐに答えを求める。
判断が必要な場面になると、上司に確認する。
面談をしても、部下からのアウトプットが少ない。
こうした状態が続くと、管理職はこう感じます。
「もっと自分で考えてほしい」
「いつまで同じことを聞いてくるのか」
「言われたことだけではなく、自分から動いてほしい」
その気持ちは、よく分かります。
ただ、ここで一度立ち止まる必要があります。
部下が考えていないのではなく、考える機会を渡せていないのかもしれません。
部下がアウトプットしないのではなく、アウトプットする場面をつくれていないのかもしれません。
人材育成は、教えることだけではありません。
本当に大事なのは、部下の考えを引き出すことです。
管理職が「教えすぎてしまう」のは、悪意ではない
まず前提として、管理職が教えすぎてしまうこと自体を責めるべきではありません。
むしろ、責任感がある人ほど、部下に丁寧に教えようとします。
部下が困っていたら助けたい。
失敗する前に教えてあげたい。
お客様や周囲に迷惑をかけないようにしたい。
自分が経験してきたことを早く伝えたい。
現場を止めたくない。
こう考えるのは、自然なことです。
特に現場型の会社では、日々の業務が止まりません。
店舗であれば、お客様対応、シフト調整、売上管理、クレーム対応。
介護やサービス業であれば、安全管理、利用者対応、スタッフ間の連携。
専門サービスであれば、納期、品質、顧客対応。
忙しい現場では、部下に考えさせるより、上司が答えを言った方が早い場面があります。
「こうして」
「これはこう判断して」
「この場合はこう対応して」
そう伝えれば、その場は早く進みます。
だから、管理職が答えを渡したくなるのは当然です。
ただし、その状態が続くと、部下は「考える前に聞く」ようになります。
そして管理職は、いつまでも答えを出し続けることになります。
教えるだけの育成で、現場に起きること
教えること自体は必要です。
しかし、教えることに偏りすぎると、現場ではいくつかの問題が起きます。
部下が受け身になる
一番大きいのは、部下が受け身になることです。
上司が答えを持っている。
上司に聞けば正解が出てくる。
自分で考えるより、確認した方が早い。
間違えるくらいなら、最初から聞いた方が安全。
こうなると、部下は自分で考える前に、上司の答えを待つようになります。
もちろん、確認することは悪いことではありません。
問題は、考える前に確認することが習慣になることです。
これでは、部下の判断力は育ちません。
管理職の負荷が減らない
次に、管理職の負荷が減りません。
部下から相談が来る。
上司が答える。
また別の相談が来る。
また上司が答える。
この繰り返しになります。
最初は親切な指導のつもりでも、気づけば管理職が常に判断を引き受けている状態になります。
その結果、管理職は忙しくなります。
「部下を育てたい」と思っているのに、部下が考える前に自分が答えを出してしまう。
「自走してほしい」と思っているのに、自走するための思考プロセスを経験させていない。
ここに矛盾が生まれます。
自走できる人材が育たない
最終的に、自走できる人材が育ちにくくなります。
知識は増えるかもしれません。
手順も覚えるかもしれません。
ミスも一時的には減るかもしれません。
しかし、自分で状況を見て、考え、判断し、次の行動を選ぶ力は育ちにくい。
現場で必要なのは、正解を暗記する力だけではありません。
状況を読み取る力。
選択肢を考える力。
優先順位をつける力。
周囲に相談する力。
自分の判断を説明する力。
こうした力は、アウトプットの中で育ちます。
人材育成で本当に必要なのは、部下のアウトプットを引き出すこと
人材育成で大事なのは、インプットだけではありません。
むしろ、部下が何を考えているのかを外に出させることが重要です。
どう考えたのか。
何に迷っているのか。
どこで判断に困っているのか。
どんな選択肢を持っているのか。
次にどう動こうとしているのか。
これらを部下自身の言葉で出してもらう。
ここに、育成の大きな意味があります。
上司が一方的に教えるだけでは、部下の頭の中は見えません。
部下が分かったつもりになっているのか。
本当に理解しているのか。
どこで誤解しているのか。
どの判断基準が抜けているのか。
それは、部下に話してもらわないと分かりません。
だからこそ、管理職には「教える力」だけでなく、「引き出す力」が必要です。
「教える」と「引き出す」は何が違うのか
教える育成では、上司が正解を伝えます。
「これはこうする」
「この場合はこう判断する」
「次はこう動く」
部下はそれを聞きます。
もちろん、基本を覚える段階では必要です。
一方で、引き出す育成では、まず部下に考えてもらいます。
「あなたはどう考えている?」
「どこで迷っている?」
「他にどんな選択肢がある?」
「その判断をすると、どんな影響がありそう?」
「次に何をするのがよさそう?」
このように問いかけることで、部下は自分の考えを言葉にします。
上司は、いきなり答えを渡すのではなく、部下の考えを見ます。
そのうえで、不足している視点を補う。
判断基準を伝える。
リスクを一緒に確認する。
次の行動につなげる。
これが、引き出す育成です。
時間は少しかかります。
しかし、この積み重ねが、部下の自走力につながります。
現場リーダーが意識したい関わり方
では、現場リーダーは何を意識すればよいのでしょうか。
難しい理論は必要ありません。
まず大事なのは、すぐに答えを出しすぎないことです。
部下が相談してきたとき、すぐに正解を伝える前に、一度聞いてみる。
「今、どう考えている?」
「どこまで整理できている?」
「何が一番迷っているところ?」
「自分なら、どの選択肢がありそう?」
こうした問いを挟むだけで、部下のアウトプットが生まれます。
次に大事なのは、部下の考えを言語化させることです。
頭の中で何となく思っていることも、言葉にすると整理されます。
「なぜそう考えたのか」
「何を優先したのか」
「どこに不安があるのか」
これを話してもらうことで、上司も支援しやすくなります。
そして最後に、次の一歩を本人に決めさせることです。
上司がすべて決めるのではなく、部下自身に考えさせる。
「では、次に何をする?」
「いつまでにやる?」
「誰に確認する?」
「終わったら、どう報告する?」
このように次の行動まで本人の言葉にすることで、責任感が生まれます。
これは管理職本人のスキルだけの問題ではない
ここで大事なのは、これを管理職個人のスキルだけで片づけないことです。
「あの店長は育成がうまい」
「あの係長は部下の話をよく聞く」
「あの主任は教え方が丁寧」
「あのSVは部下を考えさせるのが上手い」
こうした個人差は確かにあります。
ただ、会社としては、それを個人差のまま放置してはいけません。
できる管理職の下では、部下が育つ。
別の管理職の下では、部下が育たない。
ある現場では部下が考える。
別の現場では部下が指示待ちになる。
この状態では、育成が属人化しています。
人材育成を個人任せにしている会社では、現場リーダーの経験やセンスによって、部下の成長機会に差が出ます。
会社として必要なのは、教え上手な管理職を偶然増やすことではありません。
部下のアウトプットを引き出せる現場リーダーを、意図的に育てることです。
会社として整えるべきこと
会社として必要なのは、管理職に「もっと部下に考えさせろ」と言うことだけではありません。
それでは、また管理職任せになります。
大事なのは、部下のアウトプットを引き出す場面や関わり方を、現場で使える形にすることです。
たとえば、1on1や面談を単なる進捗確認で終わらせない。
「最近どう?」
「困っていることある?」
「じゃあ頑張って」
これだけでは、部下の考えは深まりません。
面談の中で、部下が自分の考えを話す。
迷っていることを言葉にする。
次の行動を自分で決める。
そうした場にする必要があります。
また、管理職同士で育成ケースを共有することも重要です。
どんな問いかけで部下の考えが出てきたのか。
どこで上司が答えを出しすぎたのか。
どのように次の行動につなげたのか。
どんな場面で部下が自分で判断できるようになったのか。
こうした事例を会社の中に蓄積していく。
それが、現場リーダー育成の仕組みになります。
研修を一度やって終わりでは、現場は変わりません。
現場で使う。
振り返る。
管理職同士で共有する。
会社として育成行動を言語化する。
ここまでやって初めて、部下のアウトプットを引き出す育成が定着していきます。
おわりに
人材育成は、教えることだけではありません。
もちろん、教えることは必要です。
ただし、教えるだけでは部下は受け身になります。
答えを待つようになります。
自分で考える機会が減ります。
管理職はいつまでも答えを出し続けることになります。
本当に必要なのは、部下の考えを引き出すことです。
どう考えたのか。
何に迷っているのか。
どんな選択肢があるのか。
次にどう動くのか。
これを部下自身の言葉でアウトプットさせる。
そこから、自走する力が育っていきます。
そしてこれは、管理職本人のセンスだけに任せるものではありません。
会社として、部下のアウトプットを引き出せる現場リーダーを育てる必要があります。
店長・SV・係長・主任が、ただ教える人で終わるのではなく、部下の考えを引き出し、判断力を育て、次の行動につなげられる存在になる。
そのための仕組みを、会社として整えていくことが重要です。
現場リーダー育成に課題を感じている企業様へ
管理職が丁寧に教えているのに、部下が自分で考えるようにならない。
1on1や面談をしているが、部下のアウトプットが少ない。
店長・SV・係長・主任によって、部下育成の質に差がある。
現場リーダーの経験やセンスに、育成が任されている。
このような課題を感じている企業様は、一度、現状を整理することをおすすめします。
現場リーダー育成の課題は、表面的には「部下の主体性」や「管理職の教え方」の問題に見えます。
しかし実際には、会社としてどのような育成行動を求めるのか、1on1や面談をどう活用するのか、管理職同士で育成ケースをどう共有するのかが曖昧なことに原因がある場合も少なくありません。
現場リーダー育成・管理職育成に課題を感じている企業様は、以下のフォームよりご相談ください。
貴社の状況を伺ったうえで、現場リーダー育成のどこに詰まりがあるのか、どこから整えるべきかを整理します。

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